ボロい機械がストレスを生む話

わざわざ臨時出勤までしたのに仕事にならなかった話。

私は4台のNC工作機械を操る仕事をしている。物凄く大嫌いで、苦手な仕事。

とは言っても何だかんだ数年勤めてるし、会社からは「正社員になれ」などと言われるぐらいだから……仕事に対する評価はそれなりにされてるのだろう。多分。

これまでも愚痴ってきてるが……辞めたくて、辞めたくて、来世に期待をかける私で御座います。もう今世は駄目だ、諦めるべ。バイタリティが限りなくゼロなの。

さて。私の扱ってる機械はおよそ30年選手……物凄く古い。私が小学生の時代から動いてるわけで御座います。大先輩だ！　でも年上と考えたら……すっかり翁だわな。

この翁が加工する物はシャフトで、その公差は数ミクロンから。扱う材質も様々で、「S45C」や「SUS430」、「SUS303」、「SUS304」……ああ、SK材も扱ってるな……私は素人だもんで、何が何やらわけわかめ。駄目だよ素人に任せちゃさ。

シャフトの種類も豊富（その多くは似たような形で、長さや径が微妙に異なる）で、その数は数千以上にも及ぶ。お陰で図面を見るのが大嫌いになった。まず、必要な図面を探し出すのが一苦労。面倒くせえ！

4台の機械にはそれぞれ特徴があり、得手不得手がある。いずれの機械も基本的には同じ物を作れるはずなのだが、経た年月がそれを許さない。ボロすぎて、作れるはずの物が作れないのだな。

4台の機械にそれぞれ名前をつけてみようか。

「ジャック」……滅多な事では壊れない一番のタフガイ。あらゆる直径及び材質のシャフトを加工可能だが、細かい仕事が超苦手。「1ミクロン？　なんだいそれは。HAHAHA！」

「メアリー」……割とオールラウンドで活躍できるが、NCプログラムの計算が一番面倒臭く加工時間も長い。「困ったらとにかく私を使いなさい！」

「サマンサ」……涼しい顔して淡々と仕事をこなすが、加工できるシャフトの種類が限られてる。「そのシャフト、微妙に作れないから他を当たってちょうだい」

「三四郎」……無表情で精密に寸法を狙う職人だが、加工できるシャフトの種類が極めて限られてる。「今日はオレの出番はないようだな」

形が複雑でごついシャフトの加工ならジャックの出番。

この日、ジャックしか加工できないシャフトが山ほど現れたのだが……ジャックがきちんと仕事してくれない。毎度の事だが、今回は特に仕事してくれなった。

わざわざ臨時出勤までしたのは、ジャックの抱えてる仕事を減らしたかったからさ。だがしかし、ジャックがちっとも働いてくれない。結局、一日ほとんど仕事にならなかった。アホか！

私はジャックの事が大嫌いだ。この野郎の部品の一つ一つはすこぶる重く、段取りは地獄極まりなし。段取りなんぞ時間を取られてばかりなので何回もする物ではないのだが、生産スケジュールが何回も段取りを強いる方向に計画されてるのでどうしようもない。下手したら「数個作ってまた段取り」とか……アホか。アホなんだな！

サマンサは主に直径8ミリのシャフトを加工している。「8ミリなら何でもござれ」と言いたくなるところだが、S45C以外の材質だと加工できない。いや、その昔は加工していたらしいのだが今は加工できない……老いぼれだからさ！　これは三四郎も同様。

SUSの直径8ミリと来ればメアリーの仕事なのだが……普段からメアリーは、直径10ミリのシャフトを中心に加工している。SUSの8ミリで着工指示が掛かってしまうとメアリーを8ミリ用に段取り替えしないといけなくなる。

ここで宙ぶらりんになってしまう直径10ミリシャフト……どこで加工するべか。
仕方ない。今度はサマンサを10ミリ用に段取りして加工するか……ところがどっこい、SUSの10ミリでも着工指示が掛かっていたら結局またメアリーを10ミリ用に段取りしないといけない。また10ミリ用に戻すのかよ！

色々と億劫になると、とにかく何でもかんでもメアリーに任せてしまうのだが……メアリーに仕事を集中させると終わる仕事も終わらなくなってしまう。悩ましい事この上なし。だがしかし、ジャックに期待すれば徒労に終わる事を嫌と言うほど思い知らされているのでジャックは無視。くたばっちまえよ！　私もくたばるわ惚け茄子が！！　あ、『モダン･タイムス』を観たくなってきたぞ。いっちょ狂うか！

どうでもいいけど……今週も臨時出勤よ！　ジャックのお陰でな！！